毎年冬に行われる「全国高等学校サッカー選手権大会」。全国高校サッカー選手たちの憧れの聖地である。愛知朝高サッカー部も、ここを目指し、日々奮闘する。
しかし、その夢は選手だけのものではない。選手権に出場資格すらなかった OB たちや、あと一歩のところで涙を流したOBたちの「夢」でもある。それゆえ OB たちの、ウリハッキョ(朝鮮学校)サッカー部への支援は厚い。
その中に、「選手権」に対して特別な感情を抱く男がいる。朴推典だ。母校サッカー部をこよなく愛し、十数年間、 選手たちと共に成長を目指してきた、その想いについて訊いてみた。
編集部(以下、編):朝高サッカー部はじめ、ウリハッキョサッカー部への支援活動を長年続けてこられたと思います。そのきっかけについて教えて下さい。
朴推典(以下、推) :選手権予選の準決勝で負けたことが、やっぱり大きいですね。当時、県内では、どの高校よりもバックアップ体制、関心、戦術、体力は整っていたと思います。だけど、「下手でした」。
1本のパス、ドリブル、シュートの精度が低かったから負けた、それがすべてです。技術があれば、朝高は選手権に出られる、他は全部揃っていますので。
その為には、ジュニア年代のレベルアップが必要、自分がそこに関わり、李太庸監督のもとに良い選手を送ろう、そう思ったのがきっかけでした。
編:これまで沢山の子供たちの指導に携わってきたと思いますが、選手の育成において、中心視したことは何ですか?
推:常に子供たちに伝えていたのは、「技術は気持ちが支える、押し上げてくれる」ということでした。どれだけ技術があっても、それを発揮できるメンタルがなければ無いのと同じ。
勝ちたい、上手くなりたいという、目の前のことに対するものだけではなく、オモニが休日にもお弁当をつくってくれること、送迎してくれること、毎回応援に来てくれること、ソンセンニン(先生)達が休みもなく一緒にサッカーをしてくれること等、いろんな人達の支えがあること、その人達の想いを忘れないことを強調しました。
そんな選手が上手くなるし、強くなる、そのプレーは、観ている人たちの心を掴むこともできます。高校の時に学んだことをそのまま伝えていました。
編:仕事を抱えながら、ウリハッキョで指導を続けることが出来たモチベーションは何でしたか?
推:ただ好きだったからです。サッカーが、子供たちが。そして、サッカーを指導させてくれる環境があったからです。
会社、学校、先生、学父母、子供たちが受け入れてくれたから以外、無いですね。特にウリハッキョとソンセンニン達には感謝しても、しきれないです。特に実績があるわけでもない自分を、温かく受け入れてくださったので。
そして僕は、陰ながらウリハッキョの支援を続ける同胞たちから、たくさんのことを学びました。自分自身が、表舞台で活動できることを考えれば、途中で投げ捨てることは絶対にできませんでした。
編:推典氏は、愛知朝高サッカー部 OB 会でも長年活動をされていると聞いています。どのような支援活動をされていますか?
推:主としては、愛知朝高サッカー部への財政的なバックアップです。今は中級部や初級部へのバックアップも行っています。
収入源はOBの皆様から頂く年会費、イベント広告費、ゴルフコンペでのチャリティー金、OBの方々からの寄付となります。その頂いたお金で、選手たちの遠征費の補助や、グラウンド使用料、必要備品の購入などに充てています。
特に高校サッカーは、金銭的に負担が多いので、少しでも足しになればと思います。
編:毎年夏に行われる OB 会イベントも盛大ですね。
推:そうですね。OBも沢山集まり、学生たちと一緒にボールを蹴ったり、焼肉を食べたりと、とても盛り上がりますね。
またタイミング的にも、選手権予選開幕の直前なので、選手たちを叱咤激励するベストな時期だと思います。
OB会では、OBたちを募って、選手権に応援に向かいます。
編:実際は、とても大変なことだと思いますが。
推:僕たちが高校の時にしていただいたことを、今は自分達がしているということです。
高校時代の恩師・李太庸監督が、常々おっしゃっていた言葉が「恩を仇で返すな。背恩忘徳な人間にはなるな」でした。何事にも感謝を忘れず、「受けたご恩は返しなさい、そしてそれを次に繋ぎなさい」と。
とても心に響きました。『恩送り』ですね。これは今の自分たちの活動の源泉であり、大事にしていることです。
編:最後に、「朝高サッカー部はこうでなければいけない!」と思う事を教えて下さい。
推:強くあってほしい、勝ってほしいというのが、OBたちが望んでいることです。
ですが、自分が上手くなるために努力し、チームの勝利の為に走って、応援してくれる人達の声援を力に、あと一歩足を踏み出せる、どんな状況でも決して諦めることなく戦う、そんな選手が集まったチームになってほしいと思います。
その姿は、観た人達の心を掴みます、そんなプレーに一喜一憂し、負けた時は一緒に悔しがり、涙を流します。言うなれば【共に戦えるチーム】であってほしいですね。
そんなチームを通して、自分ももっと頑張ろうという活力を、周りに与えてくれます。そんなチームと全国大会で共に戦うことが、僕たちOBの目標であり、すべての活動の源泉です。
(フルスロットル愛知第4号特集長編版)